予告編と本編、どっちがハズレか


映画館やDVDで予告編を見て、「ダメだ、これは絶対につまらないに違いない」と思う映画がある。大体は印象通りつまらなかったりするのだが、たまに観てみたら望外にというか、とても面白くて自分の不明を反省することもある。この10年ほどに期間を限っていえば「Rock of Ages」の映画版など、そうだった。


(2011年作品。もともとはミュージカルで初演は2005年だそうである)

この映画の予告編は映画館で何度も見た。舞台は1987年のハリウッド。アクセル・ローズを思わせるロック・ヒーローをトム・クルーズが演じる。ファッションはハード・ロック系なのだが、ジャーニー、スターシップなど当時で言うところの「産業ロック」系バンドの曲もかなり使われている(テーマソングはジャーニーのDon’t Stop Believin’)。アメリカではロック・ミュージカル、かつコメディ映画として分類される作品だが、これは絶対ハズレに違いないと信じて疑わなかった。で、DVDになってからほとんど期待せずに観たところ、これが面白かったんである。もっとも基本コメディなので、くだらないと嫌う人もいるかもしれない。

個人的なツボはハリウッドのタワーレコードが出てくるシーン。自分が行ったのは90年代前半だったので置いてあるのはLPではなくCDだったし、MWOBHMから始まったヘアメタルのブームも去っていたので店内にエレキギターも置いてなかったが、店構えなどちゃんと再現されていて懐かしい。この頃は海外へ行くたびに輸入盤(というか、向こうでは普通の国内版)を探しにレコードショップによく行っていた。アーティストがファミリーネーム順に並んでいると気がつくまでは(たとえばJohn LennonはJの列ではなくLの列にある)目当てのアルバムを探すのに、かなり苦労したことを思い出す。

同じようなパターンで、わりと最近「レディ・プレイヤー1」という映画を観た。ヴァーチャル・リアリティもの、CGメインの映画はハズレが多いという経験則から、よくて「まあまあ」くらいだろうと思っていたのだが、これがなかなか面白い。欠点は本編が140分とやや長いことで、映画の導入部でストーリーに入り込めないと長めの尺についていくのがちょっとつらい(自分も最初は途中で止めたりして、何日かに分けて観た)。制作費175ミリオン(1億7500万ドル)に対して全世界での興行収入が581ミリオン(5億8100万ドル)だから、これはヒット作と言っていいだろう。wikiによると日本での興行成績は25億円だそうである。

原作はアーネスト・クラインによる小説(ランダムハウス 2011年)でタイトルは映画と同じ『Ready Player One』。2014年には日本でも翻訳版が出版されている。日本語版のタイトルは『ゲームウォーズ』(SB文庫 上下巻 池田真紀子訳)とあらためられたが、現在流通している文庫の表紙は映画のポスターなどと同じものだ。

映画の舞台は2045年。荒廃しきった世界に住む人びとは「オアシス」と呼ばれるバーチャル空間でのゲームに逃避・没頭している。なぜか80年代のオタク系キャラクター、アイテムが次々と登場するのだが、2040年代は「1970〜80年代のポップ&サブカルチャー・ブーム」という設定なのだろう。登場するキャラクター、アイテムがいくつわかるか、みたいな愉しみ方もできる映画だが、ストーリーもなかなかよくできている。

日本人に今ひとつわかりにくいかなと思ったのは、主人公の相棒H(エイチ)の「中の人」がヘレン・ハリスという名前の黒人女性だったというあたり。ヘレンはトランス・ジェンダーもしくはゲイという設定と思われるのだが、「ちょっと女っぽい感じのオタク青年なのかな」と勘違いする人もいたりするのではないだろうか。ちなみにヘレンは映画では10代という設定になっているらしいが、彼女を演じるリナ・ウェイスは30代で(1984年生まれ)LGBQTIAに関する発言などもしている人。


(2017年エミー賞でのスピーチ)

https://www.vogue.co.jp/celebrity/risingstar/2017-09-26
(VOGUE Japanのウェブサイトに掲載された関連記事)

もうひとつ気になったのはビージーズのステイン・アライヴで主人公のパーシヴァルとアルテミスがダンスを踊るシーン。

店内(こういうのも店内というのだろうか)にかかっているのはNEW ORDERの「Blue Monday」で、パーシヴァルが「Stayin’ Alive」を掛け、サタデーナイトフィーバー風の床を出現させる。それを見たアルテミスが「Old Schooool !」と応えて2人でダンスを踊るのだが、DVDではこのときのアルテミスのセリフに「定番ね」という字幕がつけられていた。

このときの「Old Schooool !」(スクールの真ん中が伸ばされている)というひと言には「サタデーナイトフィーバーってわけね」「いい趣味してるじゃん」「あなたもオールドスクール好きなのね」など、いろいろなニュアンスが込められているような気がする。

字幕では文字制限があるなかで訳さなければならず、難しさもあると思うけれども「定番ね」というセリフでは、こぼれ落ちるものがあまりに多すぎると感じる。では、どう訳したらいいのだろう。自分が字幕をつけるとしたら「ディスコなんてイカスじゃん」とするかもしれない。(それでも伝わらないものが沢山あることに変わりはないけども)

どんな国のことばも、ひと言にさまざまなニュアンスや意味合いがこもっていることがある。それをシンプルなフレーズの外国語に置き換えることはとても難しい。スーザン・ソンタグじゃないけど、翻訳というのは基本的に「不可能ごと」なのだ。トーマス・ウルフとか読んでいると、つくづくそう思う。

そういえばこの数ヶ月、クィーンを題材にした映画「Bohemian Rhapsody」の予告編をネット上でよく目にする。この手の実録風映画、ジミ・ヘンドリックスの人生を描いた映画「JIMI」など、平凡な出来のものが多いだけに映画館まで行って観るべきか、ちょっと迷うところだ。傑作なのだろうか、それとも凡作なのだろうか。