BTSの国連スピーチから「失われた20年」を考える


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昨日、韓国のアイドル・ポップ・グループ、BTSのメンバーが国連でスピーチをおこなった。ユニセフがスタートさせた「Generation Unlimited」という若者支援キャンペーンをサポートするためで、プロジェクトは2030年までつづけられる。

(Generation UnlimitedのPV)

http://www.genunlimited.org
(Generation Unlimitedの公式ウェブサイト)

スピーチの模様はYouTubeにあれこれ上がっていて、ノーカット版もあるのだが、一番見やすいのはユニセフ公式チャンネルがアップした英語字幕入りのバージョンだろう。およそ6分半で難しい単語はほとんど出てこない。

ウェブの情報によるとスピーチをおこなったBTSのリーダー、キム・ナム・ジュン(aka RM)は、アメリカのテレビ番組などを見て英語を学んだそうだ。映像を見ているかぎりではアメリカの若者が喋る英語にかなり近く、声質も悪くない。スピーチの内容もすべての若者(あらゆるジェンダーを含む)に向けられたもので、立派なものだった。

優等生的でつまらない、きれいごとじゃないか、と批判する人もいるかもしれない。しかし世界中の人が耳を傾けてくれるのならきれいごとだって一向に構わないし、もっと言うなら、その「きれいごと」を世界に向けて発信することが、彼らがここに呼ばれた理由であったと思う。一歩を踏み出さなければ何も変わらない。理想はひとまず掲げるために存在するのである。

BTSは先頃、秋元康の楽曲を拒否したことでも注目を集めた。理由は「過去に女性蔑視の楽曲をつくってきた人だから」というものだ。あらゆる人種、あらゆるジェンダーの若者支援を目指す「Generation Unlimited」の側に立つなら、そういう判断になるのは至極当然のことだろう。要するに損得ではなく、正義不正義の問題なのだが、これが理解できない日本の実業家、政治家、ギョーカイ人はけっこう多いと思われる。

日本の国際社会におけるプレゼンスは相変わらず芳しくない。国連関係だけを見ても人権侵害に対する勧告をいくつも黙殺し、核兵器廃絶に反対し、従軍慰安婦の存在を否定したりしている。環境問題への取り組みにも大きな問題があり、確たる根拠もないままに捕鯨を認めろと言って却下されたりもしている。

「失われた20年」というフレーズは、昔は「失われた10年」といった。失われた、という表現には「自分たちは何も悪くないのだが、たまたま状況が悪いのでうまくいかないのだ」という意味があきらかに込められていて、この表現を目にするたび、ぼくはこどもの言い訳じゃないか、といつも思う。国際社会で通用するロジックや立ち振る舞いがわからず、変化する海外情勢もわからないままに、うまくいかない時期は10年を過ぎ、いつしか20年となった。

女性差別や歴史認識、環境問題、若者たちへのエンパワーメント、こういった問題をまったく理解していないのだから、失われた20年が30年になってもまったく不思議ではないし、うかうかしているうちにすぐ50年くらいにはなるだろう。そこまで不調が続くと、これは「失われた半世紀」なのだ、たまたまうまくいかないだけなのだ、と言い張るのは、さすがに厳しくなってくる。

厚顔無恥な政治家と評論家はそれでも「失われた半世紀」と(もしかしたら失われた1世紀とさえ)言い続けるかもしれないが、それは敗退を転進を言い換えた日本の旧軍部と同じだ。ものごとを客観的に見るのなら、これは日本という国と社会の、明らかな没落でしかない。すでに海外からはそのように見られ始めているのだが、多くの日本人はそのことを知らないか、認めようとしないだけなのである。