アバルト500的ルッキズム


ある種のキャラクター商品として北米で人気を博したフィアット500(チンクエチェント)。もちろん「イタリアの国民車」だった先代ではなく、新しい方である。


(画像via フィアットジャパン)

http://www.fiat-auto.co.jp/500/
(ちなみにフィアットジャパンのウェブサイトはこちら)

ジェリー・サインフェルドが「Comedians in Cars Getting Coffee(邦題 サインフェルド:ヴィンテージカーでコーヒーを)」のなかでフィアット500を見かけて「いいクルマだよね」と言うシーンがあり「アメリカでのチンクエチェントってそんな存在になったのか」とちょっと意外だった。もちろんマニアやスノッブの間だけの現象なのかもしれないが。

2012年にはスーパーボウル用にアバルト500のコマーシャルが制作されたが、これは北米とオーストラリアでは放送禁止になった。「セクシーすぎる」「セクシャリズムである」「危険運転を助長する」などが、その理由だったという。テレビをまったく観ないので日本で放送されたかどうかは、よくわからない。

タイトルは「Seduction(誘惑)」といい、二ヵ国で放送禁止になったものの、2013年に開催されたデトロイトのD-Showでは「ベストTVコマーシャル賞」を受賞している。擬人化したアバルト500を演じているのはルーマニア出身のスーパーモデル、カトリネル・メンギア。

個人的にはセクシーというよりはユーモラスなCMだと思う。ラテン系女性にエキゾチシズムを感じる男の阿呆さ加減、アメリカ的な偽カプチーノ(ブランドは映っていないが、おそらくスターバックスだろう)、カトリネルの首筋にサソリのタトゥーが入っているところなど(マニアには常識かもしれないが念のため書いておくと、サソリはアバルトのエンブレムである)あまりひねりはないのだが、よくできている。

こう言ってしまっては身もふたもないかもしれないが、カトリネルの女っぷりがカッコ良く、それだけでもっているCMだとも言える。放送禁止にはなったが評判はよかったらしく、このCMをネタにした番組ティーザー(Justin BellのWorld’s Fastest Car Show)なども作られた。そちらにもカトリネル本人が同じ衣装で登場する。

フィアット500のコマーシャルも面白いものが多い。下は「フィアット500Sはバッドボーイが乗るクルマ」というストーリー。イタリア男はプレイボーイというステレオタイプがベースになっていて古典的かつ永遠の定番、といった感じだ。

こちらは「Immigrants(移民たち)」と名付けられたコマーシャル。大恐慌時代、NYにはイタリア系移民が大挙してやってきたが、今度の移民はフィアット500です、というストーリーになっている。

フィアット面白いなあと思いつつ、気になってしまうのは「Seduction(誘惑)」を面白いと感じる自分の感性はセクシズムやルッキズムにつながっているのではないか、ということだ。差別や蔑視は無自覚であればあるほど自分自身を汚染し相手を傷つける。その基準も時代によってどんどん変わってしまう。これが絶対に正しいという線引きはどこにも存在しない。

自分自身の感性に疑念を抱きつつ、さまざまな分野の知識やリテラシーを常時アップデートしていく。その一方で馬鹿馬鹿しいもの、ワイルドなものを面白いと思う感性も残していく。究極的にはこれしかない。それを面倒くさいと思うか、刺激的と思うかは、その人次第である。