草津温泉「再発見」の旅


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編集者・ライターの間で人気絶大な宿がある。そんな話を1990年代の半ばくらいに聞いたことがあった。行ったことがないので実際どうだったかについては、ここに書くことができないのだが、箇条書きするとこんな感じのところのようだった。

1)民宿のような風情であまりきれいなところではない。たとえば室内の調度品に、うっすらと埃がつもっていたりする。

2)宿を切り盛りしているのはおばあさんで、この人のキャラクターも人気のひとつとなっている。頼めば手打ちそばを打ってくれるのだが、大人数で行く場合は事前の相談が必須だという。「いっぺんにたくさんそば打ったら、ばあちゃん死んでしまうからね」というのが、その理由。

3)宿はたしかローカル線の線路っ端にあって、90年代当時は携帯の電波が入らない場所だった。電話がかかってこないというのも編集者・ライターが好む理由のひとつだったと思う。一種のアジール(避難所)として利用されていたのだ。

正確な所在地はついに聞かずじまいだったのだが、たしか東北のどこかだった。


(上記の説明とはまったく関係ない伊香保温泉の風景)

もうひとつ面白いなと思ったのは、この宿を利用する編集者・ライターが口を揃えて「絶対に記事では紹介しない」と言っていたことだ。自分たちの行きつけは秘密にしておきたい、という気持ちもあったのだろうし、特別きれいでも風呂がいいわけでもない宿を薦める積極的な理由がないという、職業的判断もあったかもしれない。

個人的には前者の「秘密にしておきたい」という理由の方が大きかったのではないかと想像する。もう25年近く前のことなので、代替わりしていることは疑いがないし、宿そのものが残っているかもわからない。いくら東北の片田舎といっても今や携帯の電波だって入るだろう。

90年代に聞いた「編集者・ライターが秘密にしておきたい宿」のことを思い出したのは、10月に草津温泉に行ったからである。宿は地元の人が薦めるところを予約してもらったのだが、この宿が、まさにそんな感じだったのだ。開運亭という旅館。


(宿は湯畑からそんなに遠くない、というか草津の温泉街自体、そんなに大きくない)

以前は公式ウェブサイトがあったようなのだが、現在は残っているリンクを踏んでもNot Foundで、ホームページなどは存在していないようだ。(所在地、電話番号などは検索すればすぐに出てくるので、興味のある方は各自でお願いします)

宿の特徴を列挙すると、こんな感じ。

1)一応旅館だが、昭和の旅館という風情。きれいに掃除されているものの、設備や調度は旧い(泊まった部屋には冷蔵庫はなかった)。畳敷きの部屋に布団。内風呂は3人がせいぜい、ゆったり入りたいなら2人くらいがいいところ。料金は素泊まりで5千円を少し超えるくらい。(シーズンによって上下するかはわからない)

2)宿の隣にある舞茸うどんの店も経営していて、別料金で夕食を頼むと舞茸がたくさん出てくる。草津なのに魚も続々と食卓に載るのだが(もちろん夕食の頼み方にもよるのだろうけども)、これは宿をやっているご主人がもともと埼玉で寿司屋をやっていたからだと、おかみさんから聞いた。

3)土曜日に泊まったのだが、ほぼ貸し切り状態。おかげで外湯に行く必要性をまったく感じなかった。(風呂は掃除中以外24時間入浴可能)

あまりに空いていると経営不振で宿がなくなってしまわないかと心配になるのだが、今のところ大丈夫なようだ。草津温泉に最後に行ったのは今から25年くらい前のことで、たしか草津道路の料金所がなくなるちょっと前くらいだった。温泉街が妙にこぎれいになってしまって、その点は残念だったけれど、お気に入りの宿が見つかったので、おおいに印象はよくなった。

群馬の温泉というと10年くらい前までは四万温泉によく行っていたのだが、伊香保や草津といったメジャーどころも宿さえ気に入ったところが見つかれば決して悪くない。今回の草津行き、最大の収穫はこれだったかもしれない。(ただ、このエリアはホットスポットも多いので、子どものいる人、線量が気になる方にはお薦めしません)

帰りは中之条町にある「MUSE 中之条町歴史と民俗の博物館」に寄ってみた。建物は1885(明治18)年に吾妻第三小学校として建てられたもので、これ自体、県の重要文化財となっている。


(展示室の内容を案内する札が、いかにも昔の小学校)

https://www.town.nakanojo.gunma.jp/musee/
(博物館の公式ウェブサイト)

展示内容は石器時代から近代までを網羅しており、農耕具や雑器などの民俗学的資料も大量に保管されている。動物の剥製も所狭しと展示されている。よくこれだけのものを集めたなと感心するのだが、さらにときおり企画展などもやっているようだ。訪ねたときはちょうど真田忍者の企画展が終わったばかりで、忍具などがまだ並べられていた。入館料は200円である。

(追記 2020.3.10)
開運亭は3月末で廃業することが決まったと聞いた。残念なことだが、こればかりはどうにもならない。
我々がお気に入りの店、宿に対してできることは、自分たちにできる範囲で通い続けるくらいしかないのである。