「ザナドゥ」と「雨に唄えば」と「ALL THAT JAZZ」


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少し前にオリヴィア・ニュートン=ジョン癌再発というニュースが流れた。この30年の間に3度目だという。YouTubeに上がっているものをあれこれ見たが、もっともよくまとまっていたのはサタデー・ナイトの特集だった。

(40分以上あって正直長いが、今までのキャリアについてもよくまとめられている)

なるほどなあ、と思いつつ観たあと、そういえば映画「XANADU(ザナドゥ)」をちゃんと観ていなかったことに気がついた。1980年の夏に公開され、まったくヒットしなかったミュージカル映画。批評家からはこれ以上ない酷評を受け、その年のゴールデン・ラズベリー賞も受賞した。各方面から保証付きの大失敗作である。

(英語版wikiによるとこの映画、当初低予算のローラー・ディスコ・ムービーとして企画されたのだという)

クライマックスで流れる主題歌「ザナドゥ」はエレクトリック・ライト・オーケストラの作。

映画は大コケしたが、E.L.O.とオリヴィアが共演したサウンドトラックは皮肉なことに大ヒットした。アメリカとカナダでの販売枚数はダブルプラチナム(200万枚)、シングルカットされた「Magic」と「Xanadu」はアメリカ、イギリス、オランダ、イタリアでチャート1位を獲得。1981年のサウンドトラック部門(アメリカ)でも5位にランクされている。タイトルチューンのザナドゥもいいのだが、個人的にはマジックの方が好きかもしれない。

(ミディアムテンポでこのコード、メロディ、オリヴィアの声とくれば、これはヒットしない方がおかしい)

映画が公開されたのは今から38年前のことだが、観ていて最初に思ったのは「1940年代から50年代初頭にかけてのミュージカル映画みたいだ」ということだった。そう思って観ればプロットがひどいとか、台詞が凡庸すぎるとか、そういうことはあまり気にならなくなってくる。なにしろ40年近く昔の映画なのだ。

問題があるとすればダンスシーンのレベルがお世辞にも高いとは言えないことだろう。この映画はジーン・ケリー(言わずと知れた「雨に唄えば」の大スターである)が最後に出演した作品でもあるのだが、おもな登場人物のうち、ちゃんと踊れるのは彼だけである。これはいただけない。一方、ジーン・ケリーは年を取ってもジーン・ケリーであって(撮影当時67〜68歳)、背中のライン、動き方など、じつに優雅だった。

ちなみに「雨に唄えば(1952年)」では、主演クラスは当然のようにちゃんと踊る。ジーン・ケリー、デビー・レイノルズ、ドナルド・オコナーによる「Good Morning」など観ていると、ザナドゥとの差は歴然だ。(比較してはいけないのかもしれないが)

オリヴィア・ニュートン=ジョンとマイケル・ベックがハードなダンスレッスンを受けていたら、もしくはちゃんとしたダンサーが彼らの役を演じていたら、映画はどんなものになっていたのだろう。評論家からの酷評は多少少なくなったかもしれないが、それでも脚本がひどいなどと言われたかもしれない。40〜50年代の手法で撮ったミュージカルを1980年に公開したということ自体に、この映画の問題があったような気がする。(面白いことにミュージカルになった「ザナドゥ」はけっこう受けたそうである)

ミュージカルの世界を映画にして成功した例はいくつかあるが、個人的にはボブ・フォッシーの「ALL THAT JAZZ(1979年)」を推したい。冒頭のオーディション・シークエンスなど、どれだけ他の映画、コマーシャル、漫画などにパクられた、もとい影響を与えたかわからない。

この映画、ボブ・フォッシー自身をモデルにしたと思われる主人公ジョー・ギデオン(ロイ・シャイダーが演じている)が身体を病み、家庭が崩壊し、死ぬところまでを描く。自分が死ぬところをミュージカル仕立てで観客に見せ、死体用バッグのジッパーが閉められるところがラストシーン、という映画は他に類がないだろう。

自分にとって「ALL THAT JAZZ」はミュージカル映画の最高峰のひとつだが、殺伐としすぎている、楽しくない、という人も多いかもしれない。ボブ・フォッシーはヘヴィーでアクが強く、悪趣味すれすれで、いろいろな意味で情け容赦ない。だが、そこがいいのだ。こういうのは最終的には好みの問題であると思う。