ハロウィンには少し早い南瓜の話


先月後半、広島の袋町小学校 平和資料館を訪ねた際、ボランティアの方に解説をお願いした。その方は詩人のアーサー・ビナードさんのファンとのことで、ビナードさんが日本にやってきて初めて広島を訪ねたときのことなども、いろいろと教えてくれた。わざわざ書くまでもないかもしれないが、アメリカでは「原爆投下によって日本を無条件降伏させることができた。米軍の戦死者数も減らすことができ、歴史的に見れば原爆投下は意味のあることだったのだ」というのが政府、民間に共通した公式見解である。ミシガン生まれのビナードさんも学校でそう教えられ、日本に来るまでそのストーリーを信じていたそうだ。

そんな話をしているときにふと、こう訊かれた。「模擬原爆というものが日本に落とされていたことをご存知ですか」と。

広島に投下されたのがウラン、長崎がプルトニウムを使った原爆で、その形状から広島型は「リトルボーイ」、長崎型は「ファットマン」と呼ばれていた──ということまでは知っていたが、模擬原爆というのは初耳だった。知りません、それはどういうものだったのですかと訊くと、その方は「ビナードさんの一番新しい本に書かれていますから、ぜひお読みになってください」と教えてくれたのである。

まったくの余談だが、ヒロシマ、リトルボーイと聞くと、どうしてもALCATRAZZの「ヒロシマ・モナムール」を連想してしまう。


(そういえばグラハムボネットには日本公演のとき握手してもらったことがあった)

東京に帰ってきて調べてみると、例の話が書かれているのはどうやら『知らなかった、ぼくらの戦争』(小学館 2017年4月初版)という本であるらしい。収録されているのは太平洋戦争を体験した人たちの証言で、もともとは文化放送の番組「アーサー・ビナード『探しています』」のために収録されたエピソードである。このうち23名分の戦争体験を採録、加筆・修正・再構成したものが、放送終了から1年を経て1冊の本となった。

「アーサー・ビナード『探しています』」は2015年4月から2016年3月まで放送され、この番組も日本民間放送連盟賞・2016年番組部門[ラジオ報道番組]最優秀賞を受賞したそうだ。

読み進めていくと単行本にまとまる前に亡くなってしまった人が多いことに気づく。証言の合間にはビナードさんが後日書き足した文章が差し挟まれている。読んでみると対談というよりはインタビューといった印象が強い。

模擬原爆のことを語っているのは金子力〈かねこ・つとむ〉さんという方のインタビューで、“津々浦々に投下されていた「原爆」”という章がそれだ。金子さんは1950年大阪生まれで、大学卒業後は愛知県春日井市の中学校で長年、社会科教師をしていた。1986年から「春日井の戦争を記録する会」の中心メンバーとなり、空襲調査をしていくなかで模擬原爆の存在を知ったのだという。

模擬原爆というのは長崎型ファットマンと同型の爆弾で中には1万ポンド(5トン)の爆薬が入っていた。終戦の年、1945年の7月20日からポツダム宣言受諾が発表される前日、8月14日までの間に49発が投下され、多数の死傷者も出ている。丸々とした爆弾はオレンジ色にペイントされ、「パンプキン(かぼちゃ)」というニックネームで呼ばれた。

https://en.wikipedia.org/wiki/Pumpkin_bomb
(wikiの英語版当該ページ)

8月15日の時点でパンプキン爆弾は66発が残っていたが、そのすべてが海中投棄という形で処分された。機密保持のためとも言われる。

注目したいのはパンプキン爆弾の投下が長崎への原爆投下のあともあったということだ。8月14日の爆撃がそれで、この日は愛知県の豊田市に3発、春日井市に4発が投下されている。2都市を合計した死傷者数は死者8名、負傷者2名。長崎型プルトニウム原爆と同型の爆弾をこれだけの数(49発)投下したのは、一説には原爆投下訓練だったからとも言われており、もし8月15日の無条件降伏がなかったら、3発目の原爆が投下されていたかもしれない、とする説もある。(歴史にifをつけて語っても詮ないことではあるのだが)

模擬原爆について書かれた本がほかにもないか探してみると、児童書に『パンプキン! 模擬原爆の夏』(令丈ヒロ子・作、宮尾和孝・絵/講談社 2011年7月初版)という本があった。『知らなかった、ぼくらの戦争』よりも6年も早い。


(中身は文章がメインでときおり1ページ、1/2ページの挿絵が入るという体裁である)

あとがきによると、この本を書くきっかけとなったのは、著者の令丈さんが2008年の夏に「7.26 田辺模擬原爆追悼実行委員会」の人に会ったことだったという。田辺とは、大阪市東住吉区田辺のことだ。

 そこで前から気になっていた、模擬原爆慰霊碑のことをたずねたところ、くわしくパンプキン爆弾について、教えてくださいました。
「あなたも本を書く仕事をしている人なら、このことを多くの人に報せてほしい」

『パンプキン!』は、このような経緯を経て書かれた。主人公は田辺に住む小学校5年生の女の子「ヒロカ」と、そのいとこで東京に住む「たくみ」の2人で、たくみが夏休みの自由研究のために大阪にやってくる、という筋立てとなっている。泊まる先はヒロカの家ではなく、元高校教師で今は一人暮らしをしているおじいちゃんの家、という設定である。

内容は大人が読んでもなかなか面白い。昔だったら「戦争はいけないことです」みたいな教条主義が先に立つところだが、この本では主人公のひとりであるヒロカの視点でストーリーが進んでいき、部外者だったヒロカが模擬原爆という歴史的事実に巻き込まれ、次第に興味をもっていく様子が描かれる。これなら小学生の読者もすんなり話に入っていけそうだ。本気でつくられた絵本や児童書はいつだって面白い。

小学生の男女2人が主人公で女の子が大阪弁。そんなこともあって読んでいる間ずっとヒロカの声はCV松岡由貴で脳内再生されていた(より正確にはアベノ橋魔法商店街のあるみちゃんと言うべきか)。情報が勝手にリンクしていく編集脳は、なにかとめんどくさいのである。


(どうでもいいが、この動画は海外の人向けのカラオケバージョンであるらしい)


(こっちはエンディング、クレジットなしバージョン)