マルコ＆アレックスのVagabrothersが久しぶりに動画をアップデートした。タイトルは「Why We Haven’t Been Posting（ぼくらがここのところ動画をポストしなかった理由）」といい、前半はしばらくアップデートがなかった事情の説明、後半はプライベートな近況報告となっている。

Vagabrothersというユニット（彼らは本当の兄弟だが）ができたのは2012年で、最初はテレビシリーズとして放映されることを目指していたのだそうだ。とあるプロダクションに話を持ち込み、パイロット版をつくったもののボツになり、彼らはバスク・カントリーで独自に撮影を始めた。当時マルコとアレックスはスペインで英語教師などをしていて、予算のかからない地元でエピソードを作ろうと思ったのだという。更新は週1回。そのあたりの事情について彼ら自身が説明しているビデオもある。

2013年にマルコのビザが切れ、15日間スペインを離れなければならなくなった。ちょうどその頃、マルコはTwitterでこんなTweetを目にしたという。「勝者には5万ドルの賞金で6ヵ月の旅行をする権利が与えられます。必要なのは3分間のトラベル・ビデオ、題材は世界のどこでもOK」hotels.com、トラベレックスなどがスポンサードする「my destination’s BIGGEST BADDEST BUCKET LIST」というトラベル・ビデオのコンテストだった。

このTweetを見た2人は当時彼らが住んでいたサン・セバスチャンのビデオを撮って投稿、これが転機になった。

（YouTube上で検索したところ、トラベレックスがアップした動画があった）

タイのバンコクでショッピング、というビデオで、これはコンテストで優勝したあとにつくられたものだろう。ちなみにアレックスは大学卒業後、インドでマイクロファイナンスやNPO活動に関わっていたことがあり、その後、東南アジアを旅して回ったりもしたらしい。

以来、彼らは世界中を旅してビデオをアップデートしつづけた。あくまでもバックパッカーノリで、番組のなかに登場するゲストも現地のYouTuberやウェブサイト上で募集した若者たち。YouTubeというメディアだからこそできるという内容で、こういう雰囲気、悪くないじゃないかと思いつつ見ていた記憶がある。

その後、今年の6月になってマルコとアレックスからYouTubeTVで新しくテレビシリーズを始めるというアナウンスがあった。番組名は「Budget vs Baller」だそうだ。

今回アップデートされたビデオもこの延長線上にある。つまり、彼らは撮影クルーと一緒にトラベル番組をつくるというスタイルに移行しつつあり、最初のシリーズを撮影していたために、この夏は更新ができなかったのである。YouTuberとしてビデオをつくることをやめたわけではない、と説明してはいるが、番組の人気が出ればさらに多くのエピソードをつくることになり、撮影と編集は必然的にプロの手に委ねられることになるだろう。

空き時間でちょっとしたビデオを撮影することはできるかもしれないが、テレビ局に版権がある以上、今までのようにYouTubeでフルエピソードを流すわけにもいかなくなる。最終的には彼ら自身の手で投稿できるのはトレイラー（予告編）、近況のアップデート程度になってしまうと予想する。

ネットで人気が出たものが商業ベースに乗り、ネット上で見られなくなるという例は今まで何度も目にした。昔なら「のまネコ（古い）」がそうだったし、ウェブ連載の漫画などもこのパターンでネット更新が止まった例がある。ご存知の方も多いかもしれないが、ある漫画は当初「基本毎日更新」を謳っていたものの、商業誌掲載が始まると更新ペースが落ち、「ネットで読めなくなることはありません」という作者のコメントも空しく途中で更新がストップした。

YouTubeTVは月額35ドル。主だったメジャーテレビネットワーク各社とも契約しており、ライブ配信やオリジナル作品を含め、ラインナップはかなり充実しているという印象だ。海外ではケーブルテレビからYouTubeTVへ移行する人も多いだろう。マルコとアレックスの番組も、このプラットフォームから配信される。

YouTubeTVというプラットフォームを打ち立てたGoogleはこれからNetflixやディズニーが近々立ち上げる配信サービスとも闘わなければならない。YouTube上で人気のチャンネルがあれば、プロの撮影スタッフをつけてテレビ番組にしていく、というアプローチをとることは目に見えていて、そうなるとYouTuberは「撮影制作＆コメンテーターを兼ねたそのへんの人たち」から「テレビ番組のホスト、タレント」になっていくことになる。

これでは今までのテレビとなんら変わらない。プロが撮影・編集したトラベル番組がまたひとつ増える、それだけのことだ。彼らは最初から「テレビ番組をもつこと」が目標だったわけで、その意味では夢が叶ったと言えるのかもしれない。しかし、ぼくが感じていたVagabrothersの魅力は、そういった「番組」的なものとは別のところにあった。

今後つくられるシリーズは上出来だが、まったくの別ものになっていくだろう。今回の彼らのポストは事実上YouTubeにおけるVagabrothersの終了宣言であるように、ぼくには感じられる。