『米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー』
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映画『米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー』を渋谷ユーロスペースで観た。
瀬長亀次郎(せなが・かめじろう)って誰、という方は那覇市にある「瀬長亀次郎と民衆資料 不屈館」のウェブサイトをご覧になることをおすすめしたい。
不屈館の館長を務めているのはカメジローの次女、内村千尋さんである。
http://senaga-kamejiro.com/index.html
カメジローとは誰か。ごく簡単に説明するなら第二次大戦後、アメリカ統治下の沖縄で「うるま新報社長」「沖縄立法院議員」「那覇市市長」などを歴任した市民活動家・政治家である。彼が那覇市市長に就任したことをこころよく思わなかったアメリカ軍は、那覇市への補助金および融資打ち切り、預金口座凍結(口座は琉球銀行にあった)などの強行措置に出た。これは琉球銀行が占領軍出資だからできたことだが、表面上は米軍は関知していないということになっていた。
米軍は那覇市の水道まで止めてしまうのだが、那覇市民は圧力に屈しない。那覇市の預金が凍結されたのなら現金をもっていけばよいだろうということで、市役所に直接税金をもっていった。市役所の前には市民の長い列ができたという。納付率は空前の97%を記録。集まった税金は琉球銀行が預かってくれないため、大きな金庫を買ってその中に入れ、市役所の職員が寝ずの番をしたそうだ。すべてはカメジローをささえるためだった。
9/20、9/21は全回、佐古忠彦監督、藤井和史エグゼクティブプロデューサーの舞台挨拶および質疑応答があり、それもあって観に行ったのだが、上映後のティーチインで佐古忠彦監督(TBSでアナウンサーをしていた、あの佐古さんである)は「沖縄は戦後ずっと一面的な捉えられ方をしてきた。それはなぜかというと戦後史というものが抜け落ちてしまっているからだと思う」と語った。
たしかに本土の人間は第二次大戦のとき、沖縄戦がどんな状況だったか、戦後沖縄がどんな経験をしてきたをほとんど知らない。それはひとつには佐古監督が言うように「戦後史が抜け落ちている」せいだろう。ぼくが学生だった頃も、高校の日本史で教えるのは明治史まで。日清日露というふたつの戦争を経て、15年戦争に突入していった日本の歴史は、自分で本でも読まないことには一生知らないままだ。
沖縄・糸満市には沖縄戦終結の地に「沖縄県平和祈念資料館」が建っている。観光客が足を運ぶのは圧倒的に「ひめゆりの塔」が多いようだが、この資料館もとてもいい。
http://www.peace-museum.pref.okinawa.jp/
平和祈念公園内にはニュース映像などによく出てくる「平和の礎(へいわのいしじ)」もある。
沖縄戦犠牲者の名が刻まれた石碑がどこまでもつづいているさまは、機会があれば一度見ておくべきだと思う。
平和祈念資料館では沖縄戦がいかに悲惨であったかを物語る展示のほか、映像資料なども観ることができる。有名な「Typhoon of Steel」(鉄の暴風=暴風雨のように砲弾が撃ちこまれたことから、このように呼ばれた)の様子も少しではあるが登場する。その映像を見ているとき、隣に老夫婦(60代後半くらいか)が座っていた。すると奥さんが、旦那さんにこう訊いたのだ。「日本ってどこの国と戦争したの?」
率直に言ってかなり驚いたが、これもいまの日本が抱えるひとつの現実なのだろう。日本は戦争で勝ったと思っている人もいるそうだし、沖縄の知人に聞くと現地でも米軍基地の存在にまったく疑問を感じない、沖縄の歴史もよく知らない、という若者が多くなっているという。こうした状況を総称して世古監督は「戦後史が抜け落ちている」と言ったのではないか。そして、その戦後史を振り返る「アンカーマン」としてカメジローを選んだ。
この映画、もともとは49分(1時間枠)のテレビ番組としてつくられたものだったという。タイトルは報道の魂スペシャル 「米軍が最も恐れた男 〜あなたはカメジローを知っていますか?〜(2016年8月21日放送)」といい、佐古さんはこの番組でディレクターを務めていた。深夜枠での放送だったにも関わらず大きな反響があり、追加取材をおこなって映画化されることが決まった。
先行公開は8月12日、那覇市内にある桜坂劇場。劇場の外まで長い列ができ、補助席を出しても追いつかず立ち見まで出た。観客動員は9月17日に1万人を突破したというから、カメジロー人気の健在ぶりがよくわかる。「カメジローに会いに来た」と語る人も多かったそうだ。公開時の様子はニュースにもなった。
https://ryukyushimpo.jp/news/entry-554980.html
渋谷ユーロスペースでは2週遅れて8月26日からの公開。東京でも初回から10回連続満席を記録し、観客動員数は間もなく1万人を突破する見込みだという。
このあとも全国各地30ヵ所以上で封切りが決まっているとのこと。
(下は新聞記事の切り抜きが並ぶユーロスペース場内の様子)
現在TBSでプロデューサー・ディレクターなどを務める佐古さんが、瀬長亀次郎という人物を通して戦後史を描き、それが大きな反響を呼んだ。そのこと自体、非常に興味深いことだとぼくは思う。なにかというと公正中立であれ、と言われ(その意味するところは本来の公正中立ではなく、ことなかれ主義であるのだが)さまざまな圧力がかかるなか、このような番組をつくる報道人がいる。
映画には昨年のオスプレイ墜落事故も登場するが、そこには「不時着という名の墜落」というテロップが入れられていた。両論併記、どちらの側にも立たない、というスタンスを選ぶ人が多いなか、あきらかに佐古さんたちは一歩前へと踏み出している。こんなところも、まさしくカメジロー的だ。
「沖縄と本土とでは戦後の歩み、戦後史の捉えかたがまったく違う。よく戦後レジームからの脱却ということが言われますが、この溝を埋めずに脱却などあり得ないと思います。歴史を知れば今がわかる。そのためにも戦後日本のなりたちを知ってほしい」(佐古忠彦監督)
この映画は、佐古さんの初監督作品である。
公式ウェブサイト=http://www.kamejiro.ayapro.ne.jp/