ミーハー・ファンクへの登竜門


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プリンスが好きだと言うと、意外ですねと言われることがある。なぜだ。

80年代後半のプリンスは自分にとって「理想の音楽家」、「理想のパフォーマー」だった。音楽性のすべてが100%趣味に合っていたとは言えないけれど、ヒット作「Purple Rain」のあとに出したアルバム、「Around the World in a Day」「Parade」「Sign ‘O’ the Times」の振れ幅の大きさは、にわかファンたちを震撼させるに充分だった(実際に離れていったファンも多かった気がする)。

アルバムが出るたびに「どうだ、これでもついてこれるか」と挑発されているような気がしたのだが、前衛ってそういうもんである。もっとも、その前の「1999」、さらにその前の「Dirty Mind」「Controversy」からの流れを知ってる人にとっては「Purple Rain」が異質だったのだ、という話になるのかもしれない。

昨年4月にプリンスが亡くなったときは、「ついこないだもプライベートジェット緊急着陸させて病院に駆け込んでたもんね」くらいの感想しかもたなかったのだが、時間が経つにつれ不在感が堪えてくるようになった。そういうミュージシャンって現存する人の中にはいないと思っていたので、これは自分でも意外である。

もっとも好きなのはParade Tourをやっていた1986年頃。

Mutinyという曲は、いわゆるプリンス・ファミリーだった「The Family」(ややこしい)というバンドの持ち歌で、このユニットはツアーもせずにアルバム一枚だけ残して空中分解してしまった(このアルバムのCDはずっと入手困難だったが、さっき見たらMP3で販売されていた)。

プリンスの何が好きだったかというと、ファンクというもののカッコ良さをわかりやすい形でみせてくれた点かもしれない。基本ミーハー体質なのでサービス精神旺盛、ゴージャスなものには弱いのである。
たとえば「 Baby I’m a star」のライブパフォーマンスとか。

あるいはシーラE.の「A love bizzare」とか。

メロディ一発、リフ一発というのはJunior Walker and The All StarsのShotgunなどと同じ手法だが、当時の自分としては、こっちの方がはるかに刺激が強くてとっつきやすかった。

The Timeの「Jungle Love」もいい。モリス・デイとジェロームのインチキ臭さがこのバンドの華。

そういえば昔、「一番好きなボーカリストは誰か」という話になり、ジャズ雑誌の編集長から「君はマディ・ウォーターズが好きだろう」と言われて絶句したことがあった。たしかに当時はブルースに凝っていたけれども、そこまでシンプル・マインデッドではないのです。なんと答えたかについては、またいずれ。