愛は本当に憎しみを超えられるか


2016年のアメリカ大統領選が終わりトランプが勝利したあと、ニューヨークのトランプタワー前でレディ・ガガが抗議活動をおこなった。といっても大がかりなものではなく、クルマでやってきてメッセージカードを掲げただけである。カードには「Love Trumps Hate.(愛は憎しみに打ち勝つ)」と書いてあった。

日本のメディアのなかには、レディ・ガガの掲げたメッセージは「トランプは嫌い」という意味だったと報じているものがあったりして、日本の英語教育ってなんなのだろうか(大手メディアの社員はいわゆる受験エリートである)と力が抜けたことも申し添えておきたい。

https://www.j-cast.com/2016/11/11283250.html?p=all
(当時の報道とネットの反応をまとめた記事)

日本のメディアは意図的に誤訳をすることがたびたびあり、2015年にはオバマ大統領(当時)が「沖縄海兵隊のグアム移転を前進させることを確認した」と発言したのを「普天間基地の移転はより柔軟に対応したい」と同時通訳・報道したし、つい最近も米副大統領のペンスがFTAと言ったのを(このときは同時通訳もFTAと言った)FTAではないと訂正したりした。

政治的意図、忖度による誤訳は情報の改竄だが、前述の「トランプは嫌い」は単に英語力の欠如が原因なのだと思われる。社内もしくは外部のネイティブにチェックしてもらえば回避できるミスだと思うのだが、そういうこともしないのだろうか。

憎しみに愛が勝つ、といえばマーヴィン・ゲイの「What’s Going On」。「For only love can conquer hate」という歌詞が出てくる。言うまでもないかもしれないが、この歌はベトナム戦争や人種差別に対するプロテスト・ソングとして書かれた。

なぜこういったことを書いているかというと、昨日Twitterにポストされていた、ある動画を観たからだ。

大阪の道頓堀で朝鮮の民族衣装に身を包み、アイマスクをつけたSuyeon Younという女性がフリーハグをおこなっている。背後に見える道路を、今まさにヘイト・デモが通りすぎようとしているところだ。排外主義者たちの声は、おそらくSuyeonの耳にも入っているに違いない。両腕を広げて立つ彼女のかたわらには、こんな手書きのメッセージカードが置かれている。

私は韓国人です。
今日、隣の通りではヘイト・デモが行われています。
でも、私はあなたを信じます。
一緒にハグしませんか?

動画のプロデューサーはフリーハグ活動をしている桑原功一氏。なぜフリーハグをするのかについて在日本大韓民国青年会がインタビューした記事もあった。

インタビュー 桑原功一さん

排外主義、ナショナリズム、民族差別といった問題はいまや世界中を覆いつつある。そんななか、愛は本当に憎しみに勝てるのか。「愛が勝つ」なんてことは面映ゆくてちょっと言いづらいのだが、「勝てるかどうかわからないけれど、何度負けつづけてもとにかく続けていく以外ない。こっちがあきらめたら彼らが勝つことになってしまうのだから」というような態度は、ひとつの正解ではあるだろう。

何ごとも「最後は諦めの悪いやつが勝つ」とぼくは思っている。品性下劣、虚言しか吐かない輩、差別主義者や権力者を相手にするときはとくにそうで、絶対に諦めないという意志だけが頼りとなる。そして、そのときの態度はかたくなであるよりも適度なゆるさ、楽しさ、知らない人と触れあう喜び、そんなものをともなっているほうがいい。

大手メディアはヘイト・デモの様子も現政権がやっていることの真相も、官房長官の記者会見で東京新聞の望月記者がどんな目に遭っているかも、まったくと言っていいほど伝えない。最大の原因は冒頭の意図的誤訳と同じ(政府に対する)忖度だと思うが、もしかしたら「トランプは嫌い」と誤訳してしまうような低劣な言語能力も原因となっているのかもしれない。

もしそうだとすると、ちょっと困ったことだなと思うのである。