ネットが進化して地球、ふたたび平らになる
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数日前のabcニュースをなんとなく見ていたら、ノースカロライナで初のThe Flat Earth International Conferenceが開催されたという暇ネタをやっていた。ニュースはインタビュアーがカンファレンスの参加者に連想ゲームのような質問をするところから始まる。
「空は」「青い」
「1+1は」「2」
「地球は」「平ら」
なんで地球が平らなのか、という導入は平凡だが、ちょっと面白い。「Earth is〜」と訊かれて「Flat」と答える人の表情は地球が平らであるのは空が青いのと同じくらい当たり前のことだよ、という確信に満ちている。
「地球はある程度の厚みをもった円盤状である」という大昔の説は2015年YouTubeに投稿された1本の動画から再燃したと言われているようだ。動画のタイトルは「Flat Earth Clues」といい、ポストしたのはマーク・サージェントという人物である。(上と下の動画でもサムネイルになっている)
昨年の11月にはBBCもこのムーブメントについて取材している。
BBCが採り上げた時点でのマーク・サージェントのサブスクライバー数は4万3千あまり。今はどうなっているかというと、チャンネル登録者数は5万9千に届こうとしていて、動画は1200以上ある。「平面宇宙論」はネットでかなり人気があるようだ。
BBCの動画のなかにペンシルベニア在住の女性が出てくる。どうして地球が平らだと気づいたのですか、と訊かれて女性はこんなふうに答えている。
「ネットで50時間以上動画を見て、そのあとテストをしてみたの。ペンシルベニアからニュージャージーの海岸までいって、水平線を左から右まで自分の目でたしかめてみた。水平線はたしかに平らだった」
abcのニュースには元宇宙飛行士も登場して「地球は丸かったよ」と証言しているが、宇宙飛行士はプロの俳優が演じていて、地球が丸いことも人類が月に行ったことも、みんな嘘であると「平面宇宙論」の支持者は信じている。科学的な裏付けはないが、彼らはそう確信しているのだ。上の動画のなかでも多くの人が「地球がこんな小さな球形だなんて考えは納得できないし、好きじゃない」と語っている。
科学者の立場から反論を試みている人もいる。たとえばスチュアート・クラーク博士。
天文学者であり「The Unknown Universe(知られざる宇宙)」という著書もあるクラーク博士は、水平線に船が消えていくのも地球が丸いからだし、高い塔などに上って地平線を見渡すだけでも地球の丸みは知覚できる、と説明する。たいへん気の毒である。
クラーク博士の語る実例や、地球が平らだとしたら人工衛星はどのような物理法則で飛んでいるのか、という疑問に「平面宇宙論」は答えられるのだろうか。彼らは「NASAと政府が仕組んだ壮大な虚構だ」と主張するのかもしれない。地球の引力に引かれて大気圏で燃え尽きる人工衛星なども、各国政府が膨大な予算をかけて打ち上げた花火というわけだ。
では気象衛星から送られてくるデータはいったい何なのだ、と訊きたくなってしまうが、もしかすると、そうしたあらゆる科学的疑問に答える動画やテキストも広大なネット空間には存在するのかもしれない。
陰謀論、科学軽視、歴史改竄は構造がとてもよく似ている。まず最初に従来からある事実を批判し、隠された真実はこうだ、というセンセーショナルなストーリーを展開する。注意深く見ると言い換えや論理のすりかえがあり、科学的な裏付けや証明できる論理体系はなにもないのだが、タブーを破るような爽快感がある。
彼らの知識の元となっているのは多くの場合、ネットの記事やYouTubeの動画、そのネタを元に編集された書籍などで、彼らはその情報をぐるぐると消費し続ける。そしてあるとき「これは真実だ」と確信するもののようだ。ある種の天啓と言っていいだろう。
トンデモ科学だと笑ってばかりはいられない。こういうのは爽快であるだけに、どんどん歯止めがきかなくなってくるのだ。アメリカでは大統領が自分に都合の悪い報道をフェイクニュースだと言って排除、わけのわからない大統領令を濫発しているし、クールジャパンを標榜する日本も流行をしっかりとリードしている。(※)
「平面宇宙論」を信奉する人たちを見ていると、21世紀は「信じたいものを信じていい時代」になったのだなとつくづく思う。自分たちだけが真実を知り、目覚めている。それを証明してくれる理論や言論はネット上にいくらでもあるし、コンベンションに行けばすばらしい仲間にだって会える。それ以外のものはいくら権威があろうとも(というより権威があるからこそ)すべてフェイクだ。
ビッグデータ、AI、ディープラーニングなどと浮かれ騒いでいる一方で、大衆の知識と思考は中世以前へ逆戻りしたがっているかのようだ。実際、カンファレンスに参加している人たちは確信に満ちていて、しあわせそうだった。これはネットの敗北なのだろうか。それとも勝利なのだろうか?
※ 歴史的事実の軽視・改竄に加え公文書の改竄も容易で、しかもそれが起訴の理由にあたらない。次々と嘘が明らかになっても辞職はおろか、まともな謝罪さえしなくてよく、メディアは「事実と食い違う発言」と心やさしく報道してくれる。多少交際費はかかるものの、このような日本はある種の人びとにとってはユートピアだろう。さしものアメリカ、大トランプもなかなかここまではできない。