上はアカデミー賞にノミネートされたスターでもっともTweetされたのは誰、というランキングデータだが、1位が元NBAプレイヤーのコービー・ブライアントになっている。これはなんの冗談かと思っていたら、コービーは『Dear Basketball』というショート・アニメーションでノミネートされていたのだった。
2017年4月のトライベッカ映画祭で初公開されたもので、引退発表に際してコービー自身が書いた詩がもとになっている。ナレーションもコービーが務めた。アニメーションはディズニーのグレン・キーン、音楽はジョージ・ウイリアムズが担当。詩の全文はこちら。
https://www.theplayerstribune.com/dear-basketball/ (2015年11月のポスト)
詩の内容はコービーがバスケットボールに話しかけるというもので、6歳のときに父親のチューブ・ソックスを丸めてボール代わりにしたエピソードから始まる。アニメーションでは小さな子供用ゴールに向かってシュートしているが、実際は部屋の隅にあるゴミ箱に向かってシュートしていたらしい。そのあたりについてはメイキング・ビデオ(アメリカ国外からは基本視聴不可)で語っている。
コービーの父親は元バスケットボール・プレイヤー、現コーチのジョー・ブライアントで日本とも関わりが深い。バスケファンには常識かもしれないが、Kobeという名前も神戸が由来だ。ジョー・ブライアントはNBAでは華々しい成績を残せず、その後イタリアのリーグでプレイした。6歳の頃というと、ちょうど家族ともどもイタリアにいた頃だろう。いろいろ読んだかぎりでは、コービーと父親の関係はあまり良好ではなかったはずだ。
アニメーションを作るにあたっては当時コービーの部屋に貼られていたポスター、バスケットコートに並べた椅子の様子など、できる限り忠実に再現したという。アニメーションも手書きにこだわった。ハイライトは大人のコービーと子どものコービーがペアのようにジャンプシュートを決めるシーン。このあたり、さすがによくできている。
コービーは作家になりたいと思っているそうだが、詩を書いたきっかけは次女のジアナ(11歳)から言われたひと言だったらしい。「パパはいつも夢は追い求めるものだって言ってるじゃない。男ならやってみたら(men up)?」 アカデミーの授賞式後に行われた記者会見で、コービーは息もまともにできないくらいエキサイトしていた。
グレン・キーンの語るジョン・ウイリアムズのエピソードが面白い。
「ジョンは85(実際は86)歳で、譜面は全部鉛筆の手書き。彼は昔ながらのクラフトマンなんだ。オーケストラの楽器は80もあって、ジョンはすべての譜面を自分で書いた。録音当日なんて小さな子どもみたいにすごいエネルギーだった。(中略)ジョンのすぐそばに座っていたコービーは演奏のすばらしさに叫びそうになっていたけど、レッドライトがついてる(レコーディング中)って身振りで必死に止めたよ。素晴らしかった。でも最初のテイクが終わるとジョンはぼくらのほうに振り向いてこう言ったんだ。『約束する。この曲はもっといい演奏になるはずなんだ』ってね」
念のため書いておくと、ぼくは現役時代のコービーは優等生すぎてなんとなく好きではなかった。このインタビューで「Shut up and dribble(※)」問題についてコメントを求められたときも、コービーは次のように語るだけだった。
“As basketball players, we’re really supposed to shut up and dribble, but I’m glad we’re doing a bit more than that. Thank you, Academy, for this amazing honor.”
(バスケットボール・プレイヤーとしてはたしかに黙ってプレイしていればいいんだろう。でも、今回ぼくらはそれ以上のことが少しだけできてうれしいと思っているよ。すばらしい栄誉を授けてくれたアカデミーに感謝する)
根っからのセレブというか、まあ、そういう人なのである。
※FOXニュースのLaura IngrahamがNBAのスタープレイヤー、レブロン・ジェームズに向けて言ったことば。トランプ批判をしたレブロンに対してアンカーのイングラムが番組内で『黙ってドリブルしていろ=バスケだけやってろ』とコメントした
映画音楽を作曲する人たちについてのドキュメンタリーとしては『SCORE:A Film Music Documentary(邦題:すばらしき映画音楽たち)』という映画があって、こちらもなかなか興味深かった。これについてはまたいずれ。