その昔、Thin Lizzyというアイリッシュ・バンドがあった。ボーカルを務めていたのはPhil Lynottという男で、この人の名前は当時、音楽雑誌では「フィル・リノット」と表記されていた。英語圏の人たちが読むと、このファミリーネームは「ライノット」である。今では日本でも「フィル・ライノット」と表記されているようだ。
フィルは86年の1月4日に亡くなった。死因は多臓器不全ということになっているが、原因となったのは長年にわたるドラッグとアルコールの過剰摂取だったと言われる。
2005年、ダブリンのグラフトン・ストリートに死後20周年を記念してフィルの銅像が建てられ、このことをきっかけにLizzyの元メンバーたちによるコンサートが開かれた。ライブの様子は「GARY MOORE & FRIENDS ONE NIGHT IN DUBLIN A TRIBUTE TO PHIL LYNOTT」というDVDに収録されていて、ぼくがフィルの銅像が建ったことを知ったのも、このDVDだった。
(DVDに収録されているインタビュー映像 Part-1)
ちなみにアイルランドの首都ダブリンは、やたらと銅像が建っているところで、銅像になっている人も政治家、作家、詩人など多岐にわたる。作家の銅像ではジェイムズ・ジョイスとオスカー・ワイルドがよく知られているが、この2人はどちらもアイルランドを離れ、ヨーロッパで亡くなっている。(ジョイスはスイス、ワイルドはフランス)アイルランドはなんというか、面影だけが残っている場所なのだ。
フィルの銅像が建っているのはダブリンの繁華街、グラフトン・ストリートからちょっと入ったところで、Bruxelles pubというパブの前。フィル愛用のフェンダーPBベースもちゃんと銅像になっている。Googleによる地図データはこちら。
(ベースの弦には色とりどりのピックが挟まれている。近寄って見てみるとジム・ダンロップのティアドロップが多いようだった)
ダブリンに滞在したとき、まっさきに見にいったのが、この銅像だった。しかし現物を見た印象はあまりぱっとしない。似ているようで、なんだか似ていない顔と体つき、ほぼ等身大で路面に置かれているというのも、よくなかったのかもしれない。ダブリン郊外にあるフィル・ライノットの墓はパスしようと思っていたのだが、この銅像を見て、これは墓の方に行った方がいいかもしれないと考え始めた。
アイルランドを訪れるにあたっては、ガイドブック「Loneny Planet」を参考にした。このときは最初からダブリンに1週間滞在するつもりだったので、実際に持っていったのはDublinガイドだったが、実際のところ、あまり役に立たず、途中からはGoogle Mapsのレビューデータをおもに参考にした。(この反省を踏まえて、以降リック・スティーヴスのガイドブックを参照するようになるのである)
アイルランドへ行こうと思い始めたのは2014年のはじめ頃。当時は有名人の墓に関する情報は、あまりまとめられていなかったように記憶している。フィル・ライノットの墓がどこにあるのかも、なかなかわからなかった。
今では有名人の墓データを網羅したスマートフォンアプリもあるし、Google検索でも地図データが住所入りでトップに表示されるのだが(フィルの墓のデータもこんな感じで表示される)、2014〜2015年当時はGoogle検索しても、あまり詳しいデータは出てこなかったのである。
少しでも情報があればと思い、日本語で書かれたアイルランド、ダブリンに関する本も片っ端から読んでみた。しかしフィルの墓について触れているのは1冊だけで、その場所はダブリン市内の墓地であると書かれている。(たしか現地を訪れた若者と一緒に著者の女性が墓地を歩きまわるというシークエンスがあった)
本当なのだろうかと思いつつ、英語で書かれたネット上の情報を調べていくと「フィルの墓訪問記」をテキストで書いているWebサイトを発見。それによると墓のある場所はダブリン郊外のHowthというところで、駅名はSutton、墓地の名前はSt. Fintanだということがわかった(件の本は間違っていたわけである)。ありがたいことに駅から墓所への道順もかなり詳しく書いてある。プリントアウトしたテキストを頼りに、Howthまで行ってみることにした。
(Howthへ行った際にもっていたA4プリントアウト)
Howthへ行くにはダブリン中心部のコノリー駅からDARTと呼ばれる電車を利用する。以前にも書いた気がするが、この電車は映画「コミットメンツ」でメンバーたちが「Destination Anywhere」を歌うシーンにも登場する。ロディ・ドイルの原作を読むと、メンバーの多くがこの沿線の街に住んでいる設定になっていた。
(左からコノリー駅の構内、プラットフォーム、DART車内)
いよいよHowthに向かうわけだが、Sutton駅に着いてからがまた大変だったのである。というわけで続きは次回。