「バンドワゴン」という映画、覚えている人はどれくらいいるのだろう。
フレッド・アステアが出演した1953年の映画ではなくて、1996年に制作された方である。
(日本公開1998年)
ノース・キャロライナで暮らす冴えない男4人組がバンドを組んでマネージャーとともにツアーに出かけるというストーリーだが、主人公のトニーはステージで客席を向いて歌うことができないダメなやつ。カート・コベイン(ニルバーナ)のエピソードが元になっているのだろうか。一応DVDにはなったもののすぐ絶版になり、Amazonでは1万円超というプレミアがついている。というわけでしばらく前にレンタル落ちのVHSを手に入れた。今はAmazonなどで配信されていて、そんな苦労をしなくとも普通に観られる。
(こういうときのためにVHSデッキがとってあるのである)
この映画に出演した若者たちは多くが演技経験がなかったという。という話を聞いて連想するのはアラン・パーカー監督の「The Commitments(1991年)」。こちらはアイルランドのダブリンが舞台でツアーに出かけたりはしないものの、貧しい若者たちが集まってソウル・バンドを組む。筋立てはよく似ている。
メンバー全員でヴァンに乗るシーンはないが、DART(ダブリン近郊を走るローカル線)に乗って全員が歌を歌うシーンがある。曲は「Destination Anywhere」で駅員とのやりとり、切符、電車、恋がテーマ。この曲もマーヴェレッツのカバーだ。
数年前アイルランドに行った際に同じDARTに乗ってHowthまで行った。電車はさすがに新しくなったが座席の色などは映画の頃とあまり変わっておらず、アナウンスされる駅名も原作に出てきた下町ばかり(ソウルの歌詞に出てくるアメリカの地名をダブリン近郊の街に直して歌うというシークエンスがある)。これはけっこううれしかった。
(左はダブリンの駅。右が車内の様子。日曜なのでガラガラ。Howthに行ったのはThin Lizzyのヴォーカル&ベーシスト、フィル・ライノットの墓参りをするためだったのだが、これについてはまたいずれ)
(画像 via Amazon。ロディ・ドイル著、1991年集英社刊だがこれも絶版。このストーリーは三部作となっていて二作目はThe Snapper、三作目はなんとThe Vanというタイトルである)
映画はストーリーや音楽もさることながらエンディングが素晴らしい。コミットメンツはときおりライブ活動などもしているそうで、ジミー役のロバート・アーキンスは今でもダブリンの街で姿を見かけることがあるという。彼は元々シンガーで映画のオーディションでは歌を歌ったそうだ。このあたりはDVDに収録されたメイキングで見ることができる。全然関係ないが劇中にはコアーズのアンドレア・コアーが子役として出演したりもしている(→ジミーの妹役)
と、ここでふたたびNicki Bluhm & The Gramblersのビデオをいくつか。まずはパット・ベネターの「Hit Me With Your Best Shot」
(映画「Rock of Ages」ではキャサリン・ゼダ・ジョーンズがカバーしていた)
これはスティーブ・ミラーの「Take the Money and Run」
(エレキベースが助手席に座っているのは、この席でないとネックがどうやってもひっかかってしまうからだと思われる)
どうもバンドには「下積み時代幻想」というものがあるようだ。
その幻想はおんぼろヴァンの形をしているのかもしれない。